ジョン・メイナード・ケインズという経済学者をご存じの方が多いことでしょう。
しかし、ケインズ博士が世界銀行や国際通貨基金、また、貿易と関税に関する一般協定という
国際機関の設立を提唱すると共にそのために奔走したことを知る方は少ないかも知れません。
ケインズ博士がこのような国際機関を設立されたのには訳がありました。
それは、博士が市場経済は一歩間違うと、人間に罪を犯させるものとして、
昔から教会で繰り返し警告されて来た「貪欲」の餌食になることになると信じていたからでした。
「貪欲」の他にも、傲慢、強欲、嫉妬、大食、怒り、怠慢が、
人間に罪を犯させる誘因となると考えられてきたと言われます。
こういうと、キリスト教は禁欲主義だと受け止められがちなのですが、
ケインズ博士が強調なさろうとしたのは、「自由競争に歯止めを掛けないと共倒れになるよ」と
いうことだったのではないかと思います。
労働者の雇用を確保し、最低賃金を保証し、
自分たちが生産したものを消費できるようにすることが重要ですよ、と
主張されたのでしょう。つまり、有効需要が生み出されるように
規制する必要がありますということでした。
今でもこれは有効な議論だと思えるのですが。
ケインズ博士の背後にはイギリスの経済学の基礎をなす「貪欲」をはじめとする
七つの「罪の誘因」に対する警戒がありました。それは、全ての人が等しく生きる権利を持つ、
等しく神によってご自分の似姿に創造されたものであるという理解を下敷きにした主張だと
言えるのではないかと思います。
カンタベリー大主教であったウィリアム・テンプル主教の著書に
『基督教と社会秩序』(後藤 眞 訳、新教出版社、1951年)があります。
この書物の発行に先立って、同大主教はケインズ博士にもその原稿を読み意見を求めたことが、
著者の序文に書かれているのが、何とも興味深く思えます。
|